対談
「だけじゃない!
やまと蜂蜜」
組織開発の専門家から見た
「やまと蜂蜜」の文化とは?
奈良・春日山原始林の麓で、80年以上にわたり蜂と向き合ってきた家がある。
1945年創業の株式会社やまと蜂蜜。4代目・鳥居大嗣社長は29歳で家業を継ぎ、ガムシロップ充填のOEM、新ブランド「L'ATELIER DU MIEL
TORII」の立ち上げ、そして全社員での組織開発研修と、ユニークな挑戦を続けている。
組織開発専門会社であるMomentor社の坂井風太氏が、研修で関わる中で見えてきた、やまと蜂蜜社の文化を徹底解剖します。
鳥居 大嗣(とりい ひろし)
株式会社やまと蜂蜜 代表取締役社長
1991年、奈良県生まれ。大学・大学院では歴史学を専攻。
千葉での会社員生活を経て家業に入り、29歳で4代目社長に就任。
ガムシロップ充填のOEM事業を主軸に、新ブランド「L'ATELIER DU MIEL TORII」を立ち上げるなど多角的な挑戦を続けている。
坂井 風太(さかい ふうた)
株式会社Momentor 代表取締役
1991年、神奈川県生まれ。DeNA子会社代表を経て、組織基盤構築に特化して起業。
マネジメント理論の体系化と現場実装を結びつける研修プログラムを提供している。
著書に「理不尽仕事論」。
1945年創業の株式会社やまと蜂蜜。4代目・鳥居大嗣社長は29歳で家業を継ぎ、ガムシロップ充填のOEM、新ブランド「L'ATELIER DU MIEL
TORII」の立ち上げ、そして全社員での組織開発研修と、ユニークな挑戦を続けている。
組織開発専門会社であるMomentor社の坂井風太氏が、研修で関わる中で見えてきた、やまと蜂蜜社の文化を、事業・組織・経営哲学の3つの切り口から紐解いていきます。
「やまと蜂蜜」にご興味のある方に、ぜひ読んでいただきたい記事です!
養蜂、ガムシロップ、
そして「液体だったら何でも」へ
- 坂井
-
前提として、やまと蜂蜜さんはどういう事業をされている会社なのか、いつもどう説明されていますか?
- 鳥居
-
いつも答えているのは、祖父が養蜂家で、そこから始まった会社です、と。父の代でガムシロップの充填事業を始めて、今ではそちらのメーカー業、ボトリングの事業のほうが大きくなって、そちらをメインでやっています、という説明をすることが多いですね。
- 坂井
-
歴史がありますよね。今、売上構成で一番大きいのは何になるのでしょうか?
- 鳥居
-
今の構成で言うと、ガムシロップが4割。ポーションパックと呼んでいる、ガムシロップ形状の容器も含めると、全体の8割近くを売上として占めています。
- 坂井
-
8割なんですね。誰もが知っているレストランチェーンやカフェのシロップの裏側にも、やまと蜂蜜さんがいる、という理解で合っていますか?
- 鳥居
-
そうですね、大手企業さんのお仕事をいただいています。自分で言うのは少し気が引けますが、当社は液体だったら何でも詰められるんです。当初は「ガムシロップを詰める」ことが強みでしたが、いろいろな容器を持っているので、液体だったら何でも詰められますよ、と。
- 坂井
-
「液体だったら、何でも詰められる」は、力強いフレーズですね。どうしてそれが可能になったのですか?
- 鳥居
-
最初から何でも詰められたわけではないんです。もともとガムシロップの売上が8~9割を占めていた時代があって、そこが落ち込んだ時期があったんですよ。他社さんの参入もあって。そのときに、コーヒー等、色々と新しい商品にトライしたんです。
ガムシロップが減っていくにつれて、「他のものも詰めてみよう」というものがどんどん増えていって、いろんな経験があるんです。もちろん設備も必要なんですが、今までの蓄積で、気がついたら割といろんな種類の液体を詰めたことがある会社になっていた。
お問い合わせをいただいても、「それは以前にやりました」とお答えできることが多いんです。
- 坂井
-
例えば、いろんな液体というのは、具体的にどんなものですか?
- 鳥居
-
ガムシロップの次に大きいのは、今コーヒーですね。コーヒーの濃縮飲料。あとは、最近お酒も詰め始めました。
- 坂井
-
お酒も詰めるのですか。
- 鳥居
-
副社長と「次は何が詰められるかな」と話していて、「ペットフードはどうか」「いや、食品でないとお客様に怒られるんじゃないか」「では、お酒ならいけるんじゃないか」と話しながら、広がっていきました。
- 坂井
-
なるほど。だからサイトのトップにある言葉が「だけじゃない!やまと蜂蜜」なのですね。
工場から「やってみよう!」が
上がってくる
- 坂井
-
御社では「何でも詰めてみよう」という発想が、どうして生まれるのでしょう? 一般的に工場は、新しいことをやりたがらない傾向があると聞きます。営業と工場が衝突する、という話も他社ではよく耳にします。
- 鳥居
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そうなんですよね。当社は、むしろ工場のほうから「では、やってみよう」というスタンスで動いてくれるんです。それがずっと受け継がれてきている強みかな、と思います。
- 坂井
-
なぜ、そういう文化になっているとお考えですか?
- 鳥居
-
これは後でお話ししようかと思っていたのですが、私が会社に入った時、最初は現場に入っていたんです。そこで強く印象的だったのが、現場の人が「この商品は私が作った」と、誇らしげに語ることでした。
お客様の営業の方が工場に来て、試作のためにテストをするのですが、そこに現場の人も一緒になって「こうじゃないか」「ああじゃないか」と試行錯誤して、「できたんだ」と自慢げに話す人が多くて。
ゼロからオーダーメイドで作る楽しさ、というか。現場の人も、決まったものを作っているだけではない。会社全体で、そういう流れがずっとあるのかな、と思います。
- 坂井
-
研修の発表資料も、オリジナリティに溢れたものが多かったですよね。
- 鳥居
-
そうですね。みんな、ものづくりが好きなところがあるんです。
- 坂井
-
頼まれたことだけやっても面白くない、という感覚なんでしょうね。
- 鳥居
-
いい意味で「期待に応えたい」という気持ちもありつつ、自分なりの工夫、自分が一緒に作り上げたんだ、という感覚を持っているんだと思います。
なぜ多くの工場で、
創意工夫は消えてしまうのか
- 坂井
-
逆に、なぜ多くの工場では、こういう創意工夫の文化が失われてしまうのでしょうか?
- 鳥居
-
やはり、生産性を言い出すからではないでしょうか。効率や生産性の観点で見ると、やったことのないこと、新しいことは、最初は効率が悪く見えますから。
- 坂井
-
御社の場合は、極端な生産性経営はしていない、ということですか?
- 鳥居
-
もちろん利益のことは言っていますが、社員のみんなが自発的に無駄遣いをしない、という風土があるので、安心して試行錯誤を任せられています。また、利益も大事ですけど、どちらかというと、コストを詰めていくより、どうやってプラス価値を出せるか、のほうが大事かな、と考えています。
- 坂井
-
経営と現場間の信頼関係があるからこそ、安心して創意工夫を任せられる、ということなのですね。
- 鳥居
-
そうですね。あんまりそこは、不安感はないんです。
L'ATELIER DU MIEL TORII
なぜ、お菓子だったのか
- 坂井
-
今、御社にとって最も新しい挑戦が、お菓子のブランド「L'ATELIER DU MIEL TORII」だと思います。これは「液体を詰める」とは、少し違う領域ですよね。
- 鳥居
-
そうですね。最近、自分でも言語化できてきたのですが、一番の動機は「蜂蜜をブランド化したい」という想いです。
当社のミッションは「ひと」と「ものづくり」の価値創造、と置いているのですが、ものづくりは楽しいし、すごく大事だ、という感覚がずっと根底にあります。一方で、今の流通の仕組み、サプライチェーンの構造を見ていると、作り手の側に分配されている割合が少ないと感じていて。
他社さんを見ていても、みんな真面目に頑張っているんですが、すごく苦労してなんとかやっている、という状態に見える。これはあまりサステナブルじゃないよね、と。ものづくり自体の価値を上げていかないと、業界そのものが残っていかない。消費されていくだけになる。それをなんとかしたいな、というのが、結構上位にあるんですよね。
- 坂井
-
お菓子のブランドを作ると、作り手に分配される割合が増えるということなのですか?
- 鳥居
-
蜂蜜で言うと、付加価値を上げて、養蜂家さんに対して還元したいという思いがあるんです。今、養蜂家さんの状況はかなり厳しくて、放っておくとどんどん担い手が減っていってしまう。そうすると、蜂蜜だけじゃなくて作物も取れなくなったりするので、結構まずいんですよ。
養蜂家さんは、現地に行くと、本当に素晴らしい「幻の蜜」を持っておられる。でも、現在の流通の論理でいくと「そんな高いものは売れない」「数がないなら扱えない」となって、地元での消費に留まったり、ある程度均一化された状態での流通となってしまう。
これは本当にもったいない、と感じていて。ちゃんとした場所に持っていって、ちゃんと伝えれば、付加価値がつくものなんです。だから、当社がその「場所」になりたいなと考えています。
- 坂井
-
はちみつ業界の持続可能性を高めるためには、はちみつをある意味、単価高く流通させる必要があると。その一つのフォーマットとして、ブランド菓子であれば、価値に見合った価格で販売できる、ということですね。
- 鳥居
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今、パティシエの方と組んでいるのですが、私はパティシエのことを「魔法使い」だと勝手に思っているんです。お菓子はお菓子なのに、スーパーで普通に買えば100円ほどのものが、600円、1000円で売れる。あれは単なる理屈ではないなと思っていて、価値の見せ方・作り方に技術があって、魔法がかかっている。その魔法の力で、良いものを作りたいですし、業界の持続性に貢献したいと考えています。
- 坂井
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実は、この対談の前に、僕は心斎橋のL'ATELIER DU MIEL TORIIに足を運んだんですよ。店頭で「どれがいいですか」と尋ねたら、勧めていただいたのが「山藤」という幻の蜜でした。
- 鳥居
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ありがとうございます。
- 坂井
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いろんなスーパーで蜂蜜を買ったことがあるけれど、香りも味も全然違って、「これが幻の蜂蜜か」と。今、僕は1日1スプーンだけ、香りを楽しみながら大切に食べています。
ちなみに、なぜ「幻の蜂蜜」って、幻になるんですか?
- 鳥居
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大前提として、蜂蜜は自然のもので、一つの瓶の中には、数十種類以上の花の蜜が実際は入っているんです。そのブレンドの具合が、もう本当に唯一無二で。完全に同じものは、二度とできないと思うんです。年によっても違うし、タイミングによっても違う。すごく無数の掛け算があって、その末に、その一瓶が上がってくる。
- 坂井
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だから、これほど違うものになるのですね。
- 鳥居
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そうですね。それゆえのものかな、と思います。